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From  Katherine  Dec. 25th. 1905  (懐中時計Tiffanyの裏蓋に刻印)
 手巻きのアンティークの金懐中時計 。毎日ゼンマイを巻いて置き時計がわりに使っていたのだが、ある日突然、時針(短いほうの針)がフッとずれていた。5°ぐらいだろうか。長針が12時の時に、短針が(例えば)3時と4時の間を指してしまっている。びっくりした。なんで突然そんな急な変化が起こったのか。
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(これは修理後の直った状態)

この時計はヤフオクで十数年前に競り落として、そのままメンテナンスもせずに使いつづけていた。Tiffany社製14K懐中時計で、なにより陶器の文字盤のロゴが気に入っていた。
 一年前、リューズを引き上げたら、そのままスポッと抜けてしまった。真っ青になって、吉祥寺にある、アンティーク懐中時計専門店のM.P に持って行って、全オーバーホールも兼ねてブラッシュアップしてもらっていた。だから、またこのクリスマス間近にこの店に行ってみたのだ。

 店主は、すぐにチェックに取りかかる。「内部は問題がなくて、軸と針の取り付け部分が緩んでいる。。なるほど。軸が逆台形型をしているので、入りがきつく入ると緩くなる構造だ。あまり強く閉めすぎると、今度は外すときに陶器の文字盤に強い力がかかって割れるので、その真ん中を狙わなければならない」など、解説をしてくれながら、さまざまな治具を使用して穴を大きくしたり狭めたり(といってもすべて1mmぐらいの作業である)、また外しては調整し、調整しては取り付けを繰り返す。そんな作業をやっているうちに、この時計がこれまでどんな故障をしてどんな修理をされたがだんだん分かってくるらしい。

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「これは時針と分針と(小さい円の)秒針の間のマージンが取れない構造をしている。うーん、なるほど、そのために風防がすこし高さのあるものに換えられているな。。。ああ、分かりました。時針とこの小さい秒針がその回転の巡り合わせで、ふっと触れて、それで緩んでいる時針がふっと飛んだのでしょう。」なるほど。それで突然針がずれた謎がとけた。まるで地球の自転とハレー彗星の公転があるときにすっと重なってしまったようなことが起こったのだ。
 この時計は長年の修理のたびにいろいろな変化が起こっている。香箱も加工されてしまっていたり、ある部分は半田付けで部品が固定されていたり、とさまざまである。巻き止め機構も、ある修理のときに省略されてしまっている。内部を丹念に見ると、この時計がどんな修理(120年近いのだからおそらく十回以上の修理はなされているだろう)をされてきたかが分かるのだそうだ。

 この時計には、裏蓋の中のダストカバーの上に興味深い刻印がなされている。
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 キャサリンより  1905年12月25日
とあるのだ。英語圏の女性だと思われるが、クリスマスのプレゼントに、このティファニーの金無垢懐中時計をおそらく、男性にプレゼントしたのだろう。 約120年前のクリスマスの出来事だ。
今日はクリスマスイブイブの日だ。キャサリンが(おそらく)購入して男性にプレゼントしたこの時計が、どんな人たちの手を渡り、渡って、いま私の手元にあるのか。どんな修理やメンテナンスを経てきて、この2022年の吉祥寺でクリスマスの時期に直されることになったのか。どんな人たちの時を刻んで、いま私の時を刻むことになったのか。なんとも感慨深いクリスマスである。






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懐中時計の内部のメカニズムまで見える。ひげぜんまいで動く内部は、まるで心臓が鼓動しているようだ。