■壁に反射させて聞くコーナー反射型スピーカー(モノラル)を直接音で聞く

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   中央に見えるのが、EMGコーナー反射型スピーカー(1950年代製)。本来はこれを裏向きにして聞く。音を一度壁に反射させて聞く、モノラル時代ならではの発想だ。今日は、スピーカーをこちら向きにして、直接音で鳴らしてみている。


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奥の大きなラッパは、蓄音機。EMGinn Expert senior(72cm口径)a.1933年製
蓄音機とモノラルスピーカーと同じEMGで並んでいる。



モノラルレコード専用のシステムを構築してきた。モノラル専用のシステムが不安定なのは、いいスピーカーであればあるほど、一本(モノ)だけでなく、もう一本欲しくなって、どうしてもステレオでも聞きたくなることだ。そうなると、結局、モノラルを聞く時には、片チャンネルだけ使ってきくという形になってしまうので、不全感が伴い、最後にはやはり二チャンネルステレオ装置に戻ってしまうのである。
だから、本気でモノラルシステムを組もうと思ったら、ペアには金輪際ならないような、きわめてレアなスピーカーを探さなければならない。
幸い、イギリスのハンドメイド蓄音機メーカーのEMG社が、1950年代に発売したEMG model DCR 15D (Tannoy 15" monitor Silver)というコーナー型スピーカーをこの春、入手できた。内部にはタンノイの38cmシルバーモニターが組み込まれている。これがもう一台手に入る(そしてステレオにしたい)とは、ほとんど思えないので、安心して、モノラルレコード専用システムを作り上げることができた。EMGについて書かれた本にも、このコーナー・リフレクター・キャビネットの当時の広告が載っている。
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メインの装置では、LPプレーヤーはLINN LP12 を使っているのだが、カートリッジがアームに直付けされているので、カートリッジを(モノラル用とステレオ用と)取り替えることができない。この直付け形式はしかし(微少電圧の箇所で)接点が一つ減ることになるので、音質的には優れているしまたそのカートリッジ専用にアームの調整もなされるので、絶対やめることができない。Kandidというカートリッジだが実にすばらしい音がするし、これを片チャンネルだけ使ってモノラルレコードを再生することもできる。LINNのカートリッジもAKIVAとKrystalと使ってきたが、このKandidに至って、モノラルレコードも不思議なくらいいい音で鳴らせるようになった。なので、モノラルレコードを鳴らすときには、片チャンネルのアンプを切って、片方のスピーカー(tannoy IIILZ red)だけで(少し音量を上げて)聞けば、問題なくモノラルは鳴るのである。鳴るのではある、が、しかし、片チャンネル<だけで>聞いている、という不全感もどうしても伴ってしまうのである。そこでモノ専用システムを作ったわけだ。
モノラルレコードは、普通は、ステレオレコードが通常で、それ以前の音質的に不十分な存在、と思われがちであるが、そんなことはない。モノラルに合った装置できくならば、それは安定した実在感のあるすばらしい音がする。ステレオなんていうのは、錯覚を利用したイリュージョンなわけだから(いやそのイリュージョンの魅力もきわめて大きいのではあるが)。(もちろん、モノラルそのものの音質が魅力的でなければならない。ステレオのようにごまかしが聞かず、そのものがそのまま出てくるのだから。)
それにモノラルLPレコードの時代である1950年代はすばらしい演奏(ジャズもクラシックも)で満ち満ちている。

さて、これまでは以下の解説のように音を一度壁にぶつけてから聴いていた。
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この当時の広告でも、このスピーカーは背中向きで使われていることがわかる。




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このスピーカーの内部 :ほんとにタンノイ monitor silver (超稀少)が入っている


たしかに反射音できくと、中高域は一度反射し、低域はそのまま下から出てくる。反射の壁からの距離とか、壁の素材とかを調整すると、とても広がりがあってバランスのよい音がでてくる。(いまは結局、額装した額縁のアクリル板を置いているがこれがこれまでで一番いい音のする反射板である)。

だが、なんとなくスピーカーがいつも背中を向けているようでなんとなく寂しい気がしてきた。それで正面を向かせてみたのである。導入当時は低域がそれほど鳴っていなかったので、正面向きは高域がキツい感じがしたが、今日は、低域が豊かになりだしているので、正面でもかなりいい音がするようだ。むしろ、中高域の解像度が上がって聞こえる(直接聞いているのだから当然だろう)ので好調である。

いま掛けているのは、1950年代に録音されたヴィオラダガンバのソナタ。実に深々となっている。J.S.バッハのガンバソナタ全曲である。
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これはL'oiseau-lyreレーベル! モノラル時代からオワゾリール・レーベルがあったとは驚きだ。我々には1970年代からのカークビーやマーチン・ヒル、ホグウッドなどで馴染みのレーベルだが、古楽ブームの始まる前からこんなすばらしいレコードを出していたとは。
そういう意味では、おなじviola da gamba sonataの、1951年のArchiveから出ているヴェンチィンガー盤も実にすばらしい。
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このレコードは、古楽ブームが始まる前の1951年に録音されたものだが、これほどすばらしい演奏は聴いたことがない。このガンバ・ソナタはバッハの中では超名曲というほどではないと思うが、あのWenzingerがこれほど見事な録音を残していたとは知らなかった。

音があまりにいいのでライナーノートを見ていると、ガンバは
Jacobus Stainer(Absam)1673年製
のオリジナル楽器を使っていた。なるほど、である。(ハープシコードのほうは、18世紀ジルバーマンの楽器をノイペルトがコピーして1932年に製作したもののようだ)ほんとにいい演奏、いい音なのである。

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