二月も節分を迎え、なにやら急に身体が緩んだせいか、気分も明るくなってきた。久しぶりに、お茶の水のデスク・ユニオンで中古レコードを探っていると、カラヤンのワーグナー「ワルキューレ」全曲盤が眼にはいる。独グラモフォン<tulip>とあるので、1960年代の初期盤だ。はるか昔、大学生時代にもこのレコードは持っていたが、その時のものは日本グラモフォン盤でしかも後発盤だったはず。今は、独グラモフォン盤tulip印(レコードレーベルのデザインが後年はブルーの二重線になったが、1960年代の初期のものは、チューリップのような形をした柄で縁取られている)
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という記述を見つけると、だいたい入手して聴いてみたくなる。独グラモフォン盤の1960年代の録音は、実にいい音がすることは、ヨッフムの一連のブルックナー、クーベリックのシューマン交響曲、ベームのモーツアルトの交響曲など、体験済みである。
 カラヤンの「指環」は意外とその精緻な(躍動的というよりは静的な)演奏が気に入っていて、あのころは(大学生時代)、ベームの「指環」と並んでよく聴いていたものである。
 今回も、さっそくその一面目、ジークムントが逃げ込んできてジークリンデと出会う場面から聴く。G.ヤノヴィッツのシークリンデも、J.ヴィッカーズのジークムントもなにやら薄く軽い。うーん、カラヤンの指環はこんな感じだったっけなあ。チューリップ盤(初期盤)にしたからと言って、画然とよくなる、ということもないのか。というより、カラヤンの「指環」の演奏は盤の音質的向上によっても感激が大きくなることはあまりないのだなあ、と感じた。
 そこでふっと聴こうと思ったのがショルティの「指環」。1950年代末から1960年代の前半に、DECCAレコードが総力を挙げて録音したこのレコードは演奏史上でも録音史上でも世紀の偉業であり、今日でもこれを超えるものは存在しない、と言われ続けてきたものだ。
 私の場合はショルティの指環は、CD時代になってから聴き始め、何度かCDのリマスタリング盤も買い換えながら、今日に至っている。何度か聴いては、いいなあ、と思ったり、やはりホッター、ヴィントガッセン、ニルソンなど最高の歌手たち、企画のプロデューサー、J.カルショーはすごいなあ、とは思ったりしていた。
 最近のLPレコード再開においては、だから、一応、ショルティ「指環」ハイライト盤4枚組(後年のTELDEC時代のものa.1980年)などを入手してお茶を濁していた感じだった。
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今回は、ショルティの演奏を、国内発売の最初期盤(1966年、キングレコード)でかけてみた。すごい!なんという演奏なのだろう。演奏に構成力があって、確信に溢れている音だ。切迫した緊張感を表現する弦の音が、生々しく恐ろしささえ感じさせる。録音がすごくて、ちょうど巨大な建築物がその内部まできわめてくっきりと見渡せるような心地よさ。このレコードは、わざわざ「sonic stageと謳っているように、実際の舞台以上に生々しい音響空間を作り出したdeccaサウンドの真骨頂と言われてきたわけだが、今日、ついに私はようやっと深くこの 音響のステージを実感した。あまりにすごいので、「ワルキューレ」全10面のレコード盤を、三幕三場のヴォータンの別れ、やら、二幕四場のブリュンヒルデの死の告知、やら、三幕前奏曲ワルキューレの騎行、やら、一幕三場の春の訪れ、と好みの部分をあらかた聴いてしまった。
 
(ショルティ指揮「ワルキューレ」第一幕前奏曲


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しかし、不思議なものだ。何十年も聴いてきた演奏が、ようやっと今日になって、ついにその真価を体感できることになったとは。
まあ音楽に限らず、古典を味わう、ということは、このように時間がかかることなのかもしれない。しかし、そうなると逆に、実に人生(おおげさ(笑))おおいに楽しみである。慣れ親しんだものたちが、ますます味わい深く光り輝く、ということにもなるのだから。

 しかし、不思議。なぜこんなに。おそらく、レコードは国内盤なのではあるが、音のいいLONDON盤で、しかも発売日付が1966年、とほんとに初期盤に近い。このレコードは、音楽関係の友人(プロのチェリスト)から「もうLP装置もやめて聴けなくなったが、捨てるにしのびなくずっと保存してきたもの」をいただいたものだ。パンフレットには、購入日時が1969.12と記されている。ちょうど50年経って、私のオーディオ装置でふたたび再生されることになろうとは。

(装置はプレーヤーがLINN LP12 でurika2を内蔵した形。考えてみれば、urika2を搭載して、ショルティのワーグナーを聴くのは初めてだったかもしれない。LP12(+
urika2)の再生能力恐るべし、ということかもしれない。)



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(実はなんだかんだと言って、「指環」のレコードは「レコード再開」のこの3年のあいだでも、結構貯まっていたことに気がついた)


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LINN LP12 KANDID