KUROのブログ

黒崎政男〜趣味の備忘録

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今日は、サントリーホールで都響の定期演奏会。カリーナ・カネラキス指揮。アリス=紗良・オットのピアノでラヴェルのピアノ協奏曲ト長調とマーラー交響曲一番<巨人>。

ラヴェルにはいたく魅了された。快活で現代的ジャズ的な一楽章と超疾走する三楽章に挟まれた緩徐楽章の二楽章。冒頭からしばらくピアノソロが続くのだが、これが素晴らしい響きで、ちょっと大袈裟だが、この世のものとは思われない幻想的で夢見心地の響きがホール全体を満たす。こんなに魅力にとんだ曲だったとは。
大拍手で何度も呼び出された彼女が裸足だったことに気がつく。なんとオーガニックな感じ。超ハイヒールのユジャワンとはまるで対極だ。でも、お辞儀の仕方はなぜかユジャワン風。高速で腰から折り曲げるあのスタイルだった。
アンコールで弾いたペルトの小曲も、ひたすら繊細な響きをホールでも味わう喜びに満ちたものだった。

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後半のマーラー。フォルテッシモになると音楽が生き生きとしてくる。神経症的で屈曲のあるマーラーというよりは、美しい響きのマーラーだった。三楽章の例のコントラバスソロ。難しい音形でわざと歪な雰囲気を作曲家マーラーは狙ったはずだが、コンバス奏者があまりに上手すぎて、美しいコントラバスソロになってしまったのには苦笑してしまった。


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なにか、来てよかった。素晴らしい美しさと恍惚感に満ちた一夜だった。
事前にはやはりタコスを食べた。アボガド入りチキンが一番美味しい。
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今日は、モーツアルト交響曲31番、芥川也寸志がサントリーホール落成時の記念曲として作曲した「オルガンとオケのための<響>」(1986)、R.シュトラウス交響詩<ツァラトゥストラはかく語りき>の三曲。
モーツアルトは、大編成オケの魅力に取り憑かれてしまった私からすると、普通という感じで感興を催さない。通常イメージされるクラシックコンサートそのもので刺激が足りない。

二曲目の芥川也寸志の<響>。これはがぜん面白かった。大編成のオケにオルガンが加わっている。弦の不気味な響き、抑圧されたような管楽器の音。まるで、欲求不満の響きと瞬間的に解放される美。オルガンのいわば暴力的な響きが、ホール中を天井、奥と駆け巡る感じ。まさに、このサントリーホールのために作曲した<響>が味わえた。これこそ、生オケをホールでしか味わえない楽しみだと思った。
最後は全合奏の圧倒的な音で長調に転調して幸せと安堵感のうちに終結する。圧倒的に面白かった。

三曲目はR.シュトラウス交響詩<ツアラトゥストラはかく語りき>。ニーチェの主著「ツァラトゥストラはかく語りき」は思い出してみれば、高校生時代からの愛読書だった。特に「神は死んだ」や「超人」の下山、など、序説と第一部が好きだった。強烈な反カント書でもあるから、私にとっては半分は専門分野なのだが、キューブリック監督「2001年宇宙の旅」の冒頭で、この曲が使われ、それがあまりにも有名になったため、「ツアラトゥストラ」といえばニーチェではなくて「2001年」を思いうかべてしまうほどだ。
めんくらったのは、冒頭のコントラバス群の重低音の音。がーんと打ちのめすようなすごい音が冒頭から飛び出てきたのである。あまりに深く明確でしっかりした重低音。
私たちが苦労し努力しなんとかしてあの重低音の音が聞きたい、と努力してきたスピーカーの再生音は、別世界、あるいは別次元のものなのかもしれない。

あたかも、カントの言葉でいえば、<物自体>と<現象>みたいなもので、<現象>はどうやっても<物自体>にはならない、ということだ。
。。。おや、カント研究者としては、ずいぶんラフで雑な譬えを使ってしまったかもしれない。でも今日のコントラバス群の音には、それだけ次元の異なる衝撃を受けてしまった、ということなのかもしれない。

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今日の腹ごしらえは、いつものタコスではなく、アークヒルズ3Fにいろんな食べ物のお店を見つけてしまったので、
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成都正宗担々麺 というのを小辛で食べた。

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1970年代、バロック音楽やシューマンに夢中だった頃、アルビノーニやビバルディのオーボエ協奏曲やシューマンの小品集など、ホリガーのオーボエはよく聴いていた。それまでのビンシャーマンの甘いオーボエに比べて、ホリガーの音は理知的で現代的だった。あの頃は、この分野に興味ある人は、みんなこぞってホリガーを聴いていたと思う。
 半世紀も経った今日、初めてホリガーの生音を聴くことに。何かワクワクとドキドキとだった。

一曲目はポーランドの作曲家ルトスワフスキ(1913-94)がホリガーのために作曲した「オーボエとハープのための二重協奏曲」。とんでもなくエネルギッシュでパワフルで超絶難曲だ。ホリガーはそれを平然と吹き切っている。(楽器もジャンルも違うので奇妙な喩えになるが)まるでJ・コルトレーンがソプラノサックスでアドリブを吹きまくるのと同等のエネルギーで音が炸裂している。
50年前のバロック的なオーボエを予想していた私には大衝撃だった。50年の間、彼は前進し続けていたのだった。
 50年間、私の方はいったい何をしてきたんだろう、という思いに捉われた。(いや、いや私はわたしなりにちゃんとやってきたさ、と思い直して、すぐ立ち直ったが)

「ホリガー、確か86歳だよ」
「え、そんなに。ものすごく若くてパワフルだよ」
私がいつものように、タコスで腹ごしらえをしていると、前で食事していた男女三人組が英語と日本語のちゃんぽんで会話していた。どうもリハーサル後に軽食をとっているオケのメンバーのようにも思えた。あるいはホールの関係者たちかもしれない。とにかくホリガーへのリスペクトに満ちた会話のようだった。
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本番中、管楽器の方を見ると、あっと、あの三人が並んでる。しかも要所要所で、見事なソロを吹いている。ホリガーも演奏後、彼を立たせて拍手を送っていた。

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何やら音楽家同士の深いリスペクトを感じて、とてもうれしい気持ちになった一夜だった。

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