
数年前に、モノラルLPレコード専用のシステムを構築。その際プリアンプのイコライザー部分のみ適当なものでお茶を濁しておいた。今回、精密・正確なイコライザー(オーロラサウンド社製EQ100)を導入して、満足いく装置に仕上がった。各レコードそれぞれで、RIAAカーブをうまく調整すると、楽器の質感そのもの(弦楽器なら、裏板までちゃんと鳴っているか、表面しか鳴っていないか。ピアノなら芯までしっかり鳴っているか、表面的な音か)が変化する。RIAAカーブは、そうとう本質的な要素だ。

モノラル専用アーム(SME3012 II )とカートリッジ(オルトフォンCG25 Di MKII)。ターンテーブルはLINN LP12を借用。

(いろいろなアンプ(自作)を持ち出してきて、あれやこれやと実験)
RIAAカーブについては、昔から数え切れないほどの議論がある。
・RIAAカーブが統一されるまでには各社でそれぞれのカーブを使っていたのだから補正イコライザーもそれに合わせるべきだ。
・システムや部屋の様子で低中高のバランスが変わるので、RIAAを厳密に合わせても意味がない。
・高域と低域の音質調整みたいなものにすぎない。
私も数年前、モノラル専用システムを構築して、LPモノラル盤(ジャズはもちろんのこと、クラシックでも名録音、名演奏、の名盤が多数ある)をどうやっていい音で鳴らすか、挑戦していた。あのときには、モノラル専用プレーヤーにEMT930まで導入していた(その後、EMTは手放し、ロングアームをLP12に外付けする、という方法でモノラル専用カートリッジを確保している)。

モノラル専用スピーカー(Tannoy Monitor Silver 15inch Box EMG 1950年代)
イコライザー(補正)カーブはつぎのように、レコード会社や時代によってかなりことなっている。
RIAA カーブ一本のみで、すべてを補正したのでは、ずいぶんの誤差がでることになる。

(オーロラサウンド社HPより)
可変型マルチカーブフォノイコライザーアンプと命名されたEQ100は、イコライザー補正値を、各レコードに合わせて完全に調整できるようにしたものだ。

(オーロラサウンドのフロントパネル。極めて細かい調整が正確にできる。)
使い方は、
レコードプレーヤーのカートリッジの出力を、このイコライザーに入力し、このイコライザーの出力を(音量調整のアッテネータを介して)メインアンプの入力に送る。そしてスピーカーへ。と、実にシンプルな構成となる。
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今回の実験でわかったのは、RIAAカーブ補正は、単に低音強調とか高音強調とかいった、表面的な音質調整ではない、ということだ。
むしろ、楽器の響きの質感そのものが大きく変化する。
ぴったり合ったときには、例えばギーゼキングのピアノの音(コロンビア盤)が、RIAAを調整すると、ピアノの楽器の芯からちゃんと鳴っているように変化する。弦楽器にしてもそうだ。カンポーリのヴァイオリン(デッカ盤)が、深々とした充実した鳴りに変化する。
大体は、指定通りのカーブに合わせるとピター、っとハマる感じだが、必ずしも指定通りが絶対ではなく、楽器が豊かに鳴っているな、というポイントを選んで鳴らせばいい。
モノラル盤といえば、特に50年代のジャズに名盤がひしめいているが、エリック・ドルフィーのアルト・サックスが、芯がちゃんと有って深々と鳴っているように調整できる。
RIAAカーブ調整は、1950年前後のLPレコード再生には、けっこう欠かせない要素なのではないか、と考えるようになった。

今回の試みでの一番の収穫は、ヤーノッシュ・シュタルケルのモノラルレコード各盤が、本当にすばらしい音楽を奏でてくれたことだ。ほんとにながい間、カザルスのチェロ(とフルニエの若干)にのみ魅力を見出してきたのだが、今回、(人生やっと始めて)シュタルケルのチェロがすばらしい、と深く感じ入った。バッハの無伴奏、1番3番でさえ、とても新鮮に深く溌剌と心地よいチェロを聴かせてもらった。シュタルケルはモノラル!深くそう思った。

このwestminster盤のウラッハ(クラリネット)は、ずーっとながいあいだ、さまざまなLP盤で聞き続けてきたものだが、今回、RIAAカーブ調整で、ウラッハのクラリネットの深く明るい音が実にうれしく聞けた。ジャケットがいい!

リパッティのショパンのワルツ集。なんでもない後盤だが、とてもいいピアノがなってくれた。

一番期待したクレンペラーのモノラル。だが、うーん、このオーケストラでモノラルだと、なにか、とてもつまらない。さびしい。これはやはりステレオ版のほうでないと辛い。大オーケストラは、ステレオ。ステレオというテクノロジーを発明してもらったおかげで、オーケルトラが楽しく聞ける、ということがこのモノラル盤から、逆に知らされた。

あらたなイコライザーもシステムのなかに自然に組み込まれた。こんなに極めてマニアックな製品を、ちゃんと作り出してくれたメーカーに感謝したい。